Sasha's Note 一期一会

猫たちとの暮らし 嬉し楽し 嘆き驚き 好奇心 冒険 悪戯 出会い 別れ 感謝

大好きな5月

一年中で、いちばん好きな季節は? と聞かれて、5月の新緑の頃だなぁ〜と答えていた。寒さに弱く、暑さにも強くない。だから、過ごし易い、半袖でも長袖でもいい季節が心地よいのだ。GWがあって休みは多い(かった)し、これから、海のシーズンよ〜と、うきうきした気持ちって良かったな。花粉も終わってるしねぇ。


その大好きな5月が、ちょっと憂鬱になった。数年前、親友が不意の死を遂げて、真っ逆さまに落ちた5月。去年は、叔母が亡くなった。そして今年こそ名誉挽回〜といきたかったのだけれど、知り合いがふたり亡くなった。ふたりとも、卵巣癌だった。


そのうちの一人のお葬式へ行く。まず、訃報を読んで、はは〜〜と恐れおののいたのは、「イエスと共に旅立った」と書かれていたこと。どれだけ信仰心が強かったのかは、知らないけれど、とにかく、仲間内7人で、一台の車に寿司詰めになって、ずんずん飛ばして、田舎道を参列に出向いた。


彼女のお葬式は・・・これまで参列した式の中でも、ベストと言っていいくらい面白かった。面白かったなんて言ったら、失礼と思われるだろうが、本当だ。まず牧師様からして、「さあ、ボニーの死を心から祝いましょう〜」と大声で明るく始めたのだ。教会には、熱心なキリスト教の友人も多く参列していて、ちょっと頭の薄い牧師様は、参列者を3つに区分した。「悲し泣きの親族」「チャーチ・ピープル」そして「キャット・ピープル」。


そう、ボニーは、野良猫レスキューのメンバーで、自身最高50匹くらいの面倒を見ていたと言う。私は彼女の最期の1年半しか知らない。威張る、気分屋、でも、ネコへのクスリのあげ方が非常に上手く、ネコが気づく間に、クスリが口の中に入ってしまうのだ。神業?とさえ思って感心したほどだ。長い白髪を無作法に伸ばし、お洒落のおの字もなく、黙々とネコのためにいきている気がした。後で知ったのだけれど、私より若く、独身だった。ものすごく驚いた。


だいだい、日本のお葬式の様にハデな国はないと思う。それに比べて、外国のお葬式は、とても質素で、作り事が少ない。それでも、ボニーの式では、式が始まる前に、スクリーンにボニーの若かりし頃の写真がたくさん映し出されていた。彼女が、あまりにも愛らしい少女で、モデルの様に綺麗だったことに、これまた驚き、ああ、私は、本当に、彼女の何も知らずに、別れてしまったんだなぁと感慨深かった。


牧師様は、とうとうと、自分たちよりずっと素晴らしい世界へ旅立ったこと、今はイエス様に近いところにおられること、それはなんとも羨ましい限りだと力説された。それが済んだら、カセットデッキを持った者が歌う(カラオケだ)。次に、ボニーの母親が台にあがり、即興で、なんともユニークで素晴らしいスピーチをした。かなり感動した。「悲し泣きの親族」から、体格の良い黒人女性もアメージング・グレースを歌う。いい声だった。


さて、もうそろそろ式も終わりだと思ったときに、突然、牧師様が、「フリースピーチ」を! と私たちに投げかける。さあ、実はここからが、大変な騒ぎだった(笑)。「チャーチ・ピープル」が、次から次へと手をあげる。誰もが皆、演説慣れをしており、左手をズボンのポケットに入れ、右手で大きくジェスチャーをし、イエス様とボニーが成した軌跡を結びつけた見事なスピーチをする。私はなんだか、わくわくして来て、目を丸くし、聞き入ってしまった。


ひとつ、心に残った演説はこうだ。


エス様は完璧な存在です。それなのに、私たちのような未熟者を常に心にかけられ、救ってくださいました。ボニーもイエス様とまったく同じことをしておりました。人間より弱い動物に愛情を注いだのです。この様に神に近い存在だったのです。ところで、私は、ネコなんて何も知りません。どちらかというと嫌いです。(笑いを買う)。しかし、ああ、ボニーよ、貴女が召されたのは、このように素晴らしい心を持ったからに違いなく、今、イエス様のお傍におられる事に、私は大きく嫉妬を感じております。


オバマ大統領の演説の上手さは、アメリカ人の象徴だと思った。フリー・スピーチのお陰で、相当な時間、式が滞り(笑)、皆、お腹を空かせてしまった。教会の階下で、参列者の中の有志が持ち寄ったランチをいただく。私は、振る舞いなんて、これで十分だよ、日本がおかしい、と思ってしまった。年老いたボニーの母親はたくましく、明るかったけれど、看病疲れがたまっていると思う。ボニーの父親とは、34年前に離婚し、お互い再婚をしていたせいか、ふたりがまったく話をしない事に気づいて、「そんなもんかな」と思ったりした。


人生いろいろあるよね。最後に、ボニーがひとり暮らしの自宅を改良して作った、ネコルームを見せてもらいにいった。ボランティア仲間のひとりが言った。私たち、センターに預けられた猫の世話に、ハードだ、辛いと嘆くなんて甘いよね。ボニーって、人になつかない野生のネコを黙々とひとりで保護して、世話してきたんだよ。私たちがしてることなんて、ちっともハードじゃないよ。


もうひとりが言った。ボニーに聞いてみたことがある。ケッコンも、お洒落もやめて、こんなに沢山のネコを保護するのは、すばらしい。だけど、もし自分に何かあったら、ネコたちはどうするって考えたことがある? ボニーは、考えていない、と答えたという。まあ、まさか40代で生涯を終えるとは、思っても見なかったんだろうけど。


人は、やっぱり不完全だね。神じゃない・・・。


ボニーの救った野生のネコは、とても飼い猫に適さない。ボニーは、病気が発覚してから、そういうネコたちを引き取るレスキュー団体にコンタクトし、多額のドネイションと共に、何かあったら引き取ってもらう約束を取り付けていた。彼女を嫌う人も多かったけれど、ネコに対する気持ちは深かったんだよね。


私たちは、ボニーが苦しみから開放されて、地上よりいい世界にいることに、乾杯した。



* この子は、処分される寸前だったところを引き取ってきた。自分の力は小さいけれど、目の前にある、できることをやってみよう。